遺留分侵害額請求
「親が長男だけにほとんどの財産を相続させる内容の遺言を残していた」「夫が愛人に財産を全部遺贈していた」といった場合、財産を受け取れなかった相続人としてはどうすればいいのでしょうか。
本人が納得できるような事情があればいいですが、そうでない場合は「到底納得できない」と考える方もいることでしょう。
遺留分侵害額請求権は、相続人が最低限もらえるはずの遺産(遺留分)の受け取りを侵害するような遺言があった場合に、せめて遺留分だけは回収できるようにするためのものです。
この権利を根拠に、遺留分を侵害された相続人は、遺贈などを受け取った人に対して遺留分と実際にもらった金額の差額分を請求することができます。
そもそも遺留分とは?
遺留分とは、相続人が最低限もらえる遺産の取り分のことをいいます。
基本的に被相続人は遺言を書けば、自分の好きなように遺産を処分することができます。
特定の相続人に多く遺産を相続させたり、誰かに遺贈で財産をあげたりすることも可能です。
さらに、生前贈与によって、生きているうちに資産の一部を贈与することもできます。
このような場合に困るのが、被相続人からの恩恵に与れなかった他の相続人です。
なかには、遺産がまったくもらえない、あるいはほとんどもらえないということで、贈与や相続によって財産を受け取った人と比べると大きな格差が生まれてしまう可能性があります。
また、相続人の中には被相続人に経済的に依存しており、被相続人の遺産がもらえないと、生活が難しいという方もいるかもしれません。
そこで日本の民法では、相続人に対して、「遺留分」として相続人に最低限の遺産を受け取る権利を認めました。
もし遺留分を侵害するような遺言が行われたり、多額の生前贈与が行われたりしたような場合は、遺留分を侵害された相続人は、侵害した側に対して「遺留分の金額に相当する金銭をください」と請求することができます。
この請求を、遺留分侵害額請求といいます。
遺留分の計算方法
遺留分が認められるのは、兄弟姉妹(おいめい)以外の相続人です。
それでは遺留分が認められる場合、どれくらいの金額を請求できるのでしょうか。
各自が受け取れる遺留分の金額は相続人の属性と相続人の人数によって決まります。
まず、直系尊属(親、祖父母など)だけが相続人になっている場合は遺産の1/3、それ以外の場合は遺産の1/2が相続人全員の遺留分の合計額となります。
そして、これに各自の法定相続分を乗じた割合が、各相続人の遺留分となります。
たとえば、被相続人Aに配偶者B、子どもC、Dがおり、遺産の総額が6000万円だった場合、各自の遺留分は次のような計算で求めることができます。
 
・Cの遺留分=6000万円×1/2×1/2×1/2=750万円
・Dの遺留分=6000万円×1/2×1/2×1/2=750万円
そして、実際に受け取った遺産の取り分が上記金額に満たない場合は、遺留分との差額が遺留分侵害額となります。
なお、相続人以外で遺贈や贈与(相続開始前1年に行われたもの)を受け取った人がいる場合や、特別受益(遺贈、相続開始前10年間に行われた生計の資本等のために生前贈与)を受けた相続人がいる場合などでは、特別受益の分の価額を遺産の総額に加えた数字をベースに、遺留分の計算を行うことができます。
遺留分侵害額請求の請求方法
遺留分侵害額請求は、遺留分を侵害している受遺者や相続人に対して行います。
請求に際しては相手に「請求します」という意思を表示すればよく、裁判でしか請求できないというルールはありません。
遺留分侵害額請求を行う人が複数いる場合は、相手方の侵害額に各自の遺留分の割合を乗じた金額を相手方に請求することができます。
なお、遺留分を侵害した人が複数いる場合の請求の順番についてはルールが決まっており、任意の相手を選んで遺留分侵害請求をすることはできません。
まず、受遺者(多めに相続した人や遺贈を受けた人)がいる場合は受遺者に対して先に請求を行います。
受遺者が複数いる場合や同時に贈与を受けた人がいる場合は、遺言で特別の指定がない限りは、受け取った価額に応じた金額を相手方一人ひとりに対して請求できます。
また、受贈者が複数いる場合は、相続開始時に近い時期に贈与を受けた人から順に請求することができます。
遺留分侵害額請求と時効
遺留分侵害額請求権を行使できる期間には制限があり、相続の開始および遺留分を侵害する贈与または遺贈があったことを知った時から1年間行使しない場合には請求権そのものが消滅してしまいます。
相続開始から10年を経過した場合も同様です。
そのため、遺留分を請求する場合は早めに行動を起こす必要があります。
遺留分の問題は早めに相談を
実際の相続の手続きでは遺留分をはじめ、難しい問題が出てくることがあります。
当事者同士の話し合いで円満に解決できればよいのですが、そういうケースばかりとは限りません。
こうした場合、弁護士がいることで話し合いなどの手続きがスムーズに進むことがあります。
「遺留分があるかもしれない」と思った場合は一度ご相談いただければと思います。